老舗DX 早見表|4つの打ち手と成果
まずは、本記事で取り上げる代表的な事例と成果の全体像です。詳しい経緯は各テーマで解説します。
| 打ち手 | 老舗企業 | 創業 | 成果 |
|---|---|---|---|
| 独自システム開発 | 元湯 陣屋 | 1918年 | 売上1億円増・全国400施設へ外販事業化 |
| EC×FBA活用 | 糀屋本店 | 1689年 | 過去最高売上を記録 |
| EC×CRM刷新 | 梅乃宿酒造 | 老舗酒造 | EC売上を半年で10倍 |
| SNS×ストーリー | 工房 月光 | 創業約90年 | 月商8万円→150万円にV字回復 |
| UGC活用 | 銀座千疋屋 | 老舗果物店 | SNS経由アクセスが18倍 |
いずれも共通するのは、大規模な投資からではなく「今ある強み」をデジタルで可視化するところから着手している点です。
老舗だからこそDXで勝てる3つの理由
DXというと「最新システムを導入すること」というイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし老舗企業にとってのDXは、「すでに持っている強みをデジタルで正しく可視化・発信すること」に近いと考えます。
理由① 歴史やストーリーが、圧倒的なコンテンツになる
「創業〇年」「〇代続く職人の技」という事実は、新興企業には決して持てない差別化要素です。SNS・ブログ・動画を通じてこのストーリーを発信することで、価値観の近い顧客との深いつながりが生まれます。
理由② 職人技・ノウハウをデジタルで記録・伝承できる
属人化していた技術や知識をデジタルで記録・発信することは、技術伝承の問題を解決しながら、顧客への訴求力を高めることにもつながります。
理由③ 長年の実績を、デジタルで「証拠」として示せる
Googleレビュー・メディア掲載・顧客の声(UGC)は、老舗の信頼をデジタルな形で証明します。これらはChatGPTやGeminiといったAI検索でも参照されるようになっており、AIO(AI最適化)の観点からも重要性が高まっています。
【テーマ1】独自システム開発でV字回復と新規事業を同時に実現
元湯 陣屋(1918年創業・老舗旅館)→ IT企業へ転換
神奈川県鶴巻温泉の元湯 陣屋は、10億円の負債を抱え倒産寸前という状況から、クラウド型旅館管理システム「陣屋コネクト」を自社開発するという決断を下しました。
予約管理・顧客情報・社内連絡・売上管理をタブレット一台で一元化。これによってスタッフの働き方が大きく変わり、週休3日制の実現・売上1億円増加・離職率の大幅低下を達成しています。
さらに注目すべきは、このシステムを同業他社へ販売するという新規事業(外販)の誕生です。現在は全国400以上の旅館・ホテルに「陣屋コネクト」が導入されており、旅館業から「旅館向けITサービス企業」への転換を成し遂げています。危機的状況が、まったく新しいビジネスを生み出した事例といえます。
互信ホールディングス(1959年創業・タクシー事業)→ 直接予約で販路拡大
観光タクシーの予約受付・配車指示・日報を、紙とホワイトボードからWebシステムに完全移行。旅行代理店経由のみだった予約を、個人客(エンドユーザー)が直接予約できる仕組みに変えました。移動距離から自動でツアー料金を計算する機能も実装し、インバウンド客や少人数ツアーという新規顧客・新販路への対応基盤を整えています。
【テーマ2】EC×データ活用で販路と商品を一気に拡大
糀屋本店(1689年創業・糀づくり)→ Amazon FBAで過去最高売上
創業1689年という日本でも指折りの老舗糀メーカーです。戦後の需要激減という逆境の中、独自研究によって「塩糀」を現代に甦らせ、全国的なブームの先駆けとなりました。
販路拡大の鍵となったのが、AmazonのFBA(フルフィルメント by Amazon)の活用です。自社ECサイトでの配送業務の負担を解消しリードタイムを短縮したことで、過去最高の売上を記録。さらに海外シェフにも愛用されるようになり、カレースパイス風の糀パウダーなど新商品の開発も続いています。
梅乃宿酒造(老舗酒造メーカー)→ EC売上を半年で10倍に
CRM(顧客関係管理)機能の充実したECプラットフォームへの刷新と、顧客データに基づくメルマガ・クーポン配信の徹底が奏功しました。SNSで話題となった新商品「大人の果肉の沼」をフックに新規顧客を獲得し、リピート購入へ繋げる導線を整えることで、半年でEC売上を10倍に伸ばすという実績を残しています。
加賀屋米菓(1952年創業・せんべい製造)→ 前年比130%増と新事業構想
コロナ禍で卸先の売上が落ち込む中、Amazonへの出品を本格化。カスタマーレビューや売上ランキングの分析から顧客ニーズを直接把握し、新商品開発に反映するという意識変革が生まれました。この取り組みが実を結び、年間売上前年比130%増を達成しています。
【テーマ3】SNS×ストーリーで若年層・新規顧客を獲得
工房 月光(創業約90年・京都の革製品工房)→ 1投稿で月商150万円に復活
月の売上が8万円まで落ち込み、廃業を決意していた革製品工房に、ライフスタイル系インフルエンサー(フォロワー1.8万人)が訪れました。インフルエンサーは無報酬で、職人の技術と「廃業の危機」というストーリーをInstagramで発信。品質を重視する女性層に深く刺さり、1投稿だけで200件以上の問い合わせが殺到しました。月商は150万円にV字回復し、その反響を見た息子がUターンして後継者となるという展開まで生まれています。
「圧倒的な技術×廃業寸前というドラマ」が、デジタルを通じて多くの人の心を動かした事例です。投資額はほぼゼロで、発信の切り口だけで結果が変わっています。
株式会社高島屋(老舗百貨店)→ 若年層・男性という新規顧客層を開拓
住信SBIネット銀行と提携し、スマホで完結する積み立てサービス「高島屋ネオバンク(スゴ積み)」を開始。従来の「友の会(積み立て)」をデジタル化したことで、これまで百貨店と縁が薄かった若年層や男性の新規顧客層の開拓に成功しています。
株式会社銀座千疋屋(高級果物店)→ SNSアクセスが18倍に
顧客がInstagramに投稿した自社商品の写真(UGC=ユーザー生成コンテンツ)をECサイト上で紹介する仕組みを導入。写真をクリックするとそのまま購入ページへ遷移する導線を整えたことで、SNS経由のアクセス数が18倍に増加。若年層への認知拡大と新規顧客獲得を実現しています。
【テーマ4】リブランディングと他業種コラボで新領域へ展開
くら寿司(1977年創業・外食チェーン)→ テクノロジーとグローバル展開を両立
ブランドロゴの刷新とともに、AIカメラによる鮮度・品質管理や非接触型サービスをいち早く導入。高級業態「無添蔵」の展開やアメリカ・台湾・中国へのグローバル進出により、ファミリー層だけでなくインバウンド需要や若年層という新たな顧客層を幅広く獲得しています。
博多織 × 伊藤園/駿河和染 × アップサイクル商品
伝統工芸「博多織」の柄を活かして福岡空港の伊藤園自動販売機にラッピングを施した取り組みは、日常のインフラを伝統を伝える媒体に変えた事例です。一方、商品化できない茶葉をお茶染めに活用した「駿河和染」の取り組みは、伝統技術とサステナビリティを掛け合わせたアップサイクル商品として注目を集めています。異業種との「共創」が、老舗に新たな顧客接点と収益をもたらす可能性を示している事例といえます。
老舗DXに共通する3つの成功パターン
ここまでご紹介した事例を振り返ると、3つの共通点が見えてきます。
「伝統の価値」×「最新デジタルツール」の掛け算
SNS・AI・クラウド・ECといったデジタルツールは、老舗の歴史や技術を届けるための「器」として機能しています。伝統を捨てるのではなく、現代の文脈にアップデートすることが変革の核心です。
「モノ売り」から「ストーリー売り」への転換
製品の品質だけでなく、職人の想いや創業の経緯、サステナブルな製造背景を発信することが、若年層や新規顧客の心を動かしています。「なぜこの商品が生まれたのか」という文脈こそが、老舗の最大の強みです。
スモールスタートからの着実な拡大
大規模なシステム投資や組織改革を一度に行うのではなく、AmazonのFBAやクラウドサービスの活用、SNS投稿など、手の届く範囲から始めているケースが目立ちます。工房 月光のケースはほぼ追加投資ゼロで月商が大幅に回復しています。
まとめ
老舗の「歴史と伝統」は、それ自体がすでに強力なコンテンツです。その価値をデジタルで可視化し、正しく届けることが、新規顧客獲得への近道になり得ます。
本記事でご紹介したとおり、スモールスタートでも着実に成果を出している老舗が全国に増えています。「DXに興味はあるが、何から始めればよいかわからない」「自社の歴史をどうWebやSNSで伝えればいいか」という場合は、お気軽にご相談ください。テラデザインでは、中小企業・老舗事業者のDX支援・Webマーケティング・AI活用伴走をワンストップでサポートしています。
